レン・マスターマンのメディア・リテラシー18の基本原則
(1989年版日本語訳)
原文 Media Awareness Education: Eighteen Basic Principles (CML)
注:日本で知られているのは1995年にAMLが発行したニュースレターに掲載されたもので、翻訳はFCTメディア・リテラシー研究所の宮崎寿子先生と鈴木みどり先生(鈴木みどり編『メディア・リテラシーを学ぶ人ために』2001:296-297)。しかしここに翻訳したものはCML(Center for Media Literacy)に掲載された1989年版であり、項目の内容や表現に多少の違いがある。
1.メディア教育は重大かつ意義ある試みである。問われているのは個々人とりわけマイノリティのエンパワーメントと社会の民主的構造の強化である。
2.メディア教育を統合する中心的コンセプトはリプレゼンテーションである。メディアは媒介する。メディアは世界を反映するのではなく再表現(リプレゼント)する。
3.メディア教育は生涯にわたるプロセスである。それゆえに、学習者の高いモチベーションが主要な目的にならなければならない。
4.メディア教育は単に批判的知性を育てるのではなく、批判的主体を育てる。
5.メディア教育は探究である。メディア教育は特定の文化や政治的価値を押し付けない。
6.メディア教育は状況と機会を重視する。メディア教育は学習者の生活状況に光をあてる。そして、メディア教育は「今、この場」を、広く歴史的かつイデオロギー的な問題の文脈に置くであろう。
7.メディア教育で用いるコンテンツは目的のための手段である。その目的は別のコンテンツではなく、他の場面に応用できる分析的なツールを開発することにある。
8.メディア教育の有効性は次の二つの基準によって評価される。
(a)新しい状況に生徒自らの批判的思考を用いる能力
(b)生徒が示す関与と動機の深さ
9.理想としては、メディア教育における評価は、形成的かつ総括的な学習者の自己評価の手段である。
10.実際、メディア教育は内省と対話双方のための対象を提供することによって、教えるものと教わるものの関係を変革する試みである。
11.メディア教育は単なる討論ではなく、対話を通して探究する。
12.メディア教育は基本的に活動的かつ参加型であり、より開かれた民主的な教育実践の展開を促進する。メディア教育は学習者に自らの学習に対してより責任を持ち、学習を自己管理し、授業の計画に参加し、そして自らの学習に長期にわたる視野を持つように力づける。
13.メディア教育は新しい教科領域の導入に関わるよりも、より教室での新しい働き方の方法に関わっている。
14.メディア教育は協働学習を含む。協働学習はグループに焦点を当てる。個々人の学習は競争ではなく洞察とグループ全体のリソースに関わることによって強化される。
15.メディア教育は実践的批判と批判的実践の双方から成り立っている。それは文化的再生産に対する文化的批判の優位性を確認するものである。
16.メディア教育は総体的(ホーリステック)なプロセスである。理念的には保護者やメディア専門家、教職員同士の関係を形作るものである。
17.メディア教育は絶えざる変革の原理に関わっている。それは絶えず変化していく現実とともに発展しなければならない。
18.メディア教育の土台にあるのは差異の哲学的認識論(エピステモロジー)である。すなわち、既存の知識は単に教師によって伝えられたり、学習者によって「発見される」のではない。それは目的ではなく始まりである。それは批判的探究と対話の対象であり、そこから新しい知識は学習者と教師たちによって能動的に創造されるのである。