ユネスコ・デジタル時代のメディア情報リテラシーに関するパリ宣言(2014年)
2014年5月27~28日にユネスコパリ本部で開催された第1回欧州メディア情報リテラシーフォーラムの参加者は、デジタル時代のメディア情報リテラシーに関するパリ宣言を採択した。
この宣言は、メディア情報リテラシーの重要性を再確認するとともに、今日のデジタル環境におけるメディア情報リテラシーを新たな視点で見直し、すべての人のためのメディア情報リテラシーを発展させるために主要な関係者やマルチ・ステークホルダー間の協力を求めるものである。
宣言の最終版は、付属文書とともに2014年8月に発表された。
前文
21世紀のデジタル環境は、メディアと情報の意味と利用に深い影響をもたらしつつある。そのため、メディア情報リテラシーに対する研究と実践への不断な革新が求められている。
世界中の多くの人々が未だインターネットにアクセスできないことを我々は知っている。しかし、他方で、若者のみならず大人をも取り囲みながら、徐々に拡大しつつある情報環境において、新しいリテラシーが求められている。この宣言はこれに対してメディア情報リテラシーを中心に置いた答えを前面に押し出すものである。
主要行動機関の重要性(ユネスコ・ウェブサイトの付属文書参照)
メディア情報リテラシーの強調の再確認
メディア情報リテラシーに関わるものは以下のことをすべきである。
・あらゆる人間生活の側面にメディアとテクノロジーが埋め込まれることによって現れた機会や課題を認識するとともに、それらが人間の価値とさらなるリテラシーの必要性を目に見えるようにしたことを認識すること。
・メディアとインターネットの公的価値を高め、公益または公共としてのメディアとインターネットに対する議論を促すこと。
・メディア情報リテラシーの公共性、メディア、情報、教育および知識へのパブリック・アクセス、多様な社会文化的文脈への十全な理解を確認すること。
・インターネットに対する人権の枠組みに向けた動きを進めること。
・学校の教育方針から国際的な取り決めに到るまでの幅広い組織を包含しつつ、インターネット・ガバナンスにおけるマルチ・ステークホルダーの参加を支持し、それを可能にするメディア情報リテラシーの必要性を確認すること。
・メディア、情報そしてICT企業のメディア情報リテラシーの潜在力を推進すること。
・今日のメディア情報リテラシーを紐解くこと。(ユネスコ・ウェブサイトの付属文書参照)
ユネスコ、欧州委員会およびその他一般のマルチ・ステークホルダーへの勧告
私たち、GAPMIL(メディア情報リテラシーに関するパートナーシップのためのグローバル同盟)の枠組みのもと、第一回欧州メディア情報リテラシーフォーラムの参加者は、デジタル時代における、そしてデジタル時代との関係の中で、個人のエンパワーメントという観点から、メディア情報リテラシーへ私たちの新たな支援を宣言し、ここに約束する。
1. メディア情報リテラシーは複雑な21世紀のリテラシー実践である。そこには、インクルージョンを強化する手段、情報、文化、協同に対する知識とスキルおよび批判的態度、そしてすべての人々がアクセスし、創造し、革新することのできるメカニズムを含んでいる。
2. 人権基準に則り、アクセス、プライバシー、安全、セキュリティ等の問題や情報とメディアおよびテクノロジーの倫理的活用に対処するためにメディア情報リテラシーを促進する。そして、文化的多様性、異文化間・異宗教観対話や、脆弱な社会資本やひ弱な民主主義的政治文化を有する国々の市民の保護と関係づけてメディア情報リテシラーの役割を認識する。
3. 教育および文化機関にメディア・ラボを設置し、デジタル経済の発展のための主要施設と位置づけ、メディアを超えた多様な形態のコンテンツの創造を推進する。
4.高等教育機関や研究コミュニティ、公的私的なメディアおよび市民セクターの組織など、職業教育訓練に関わるステークホルダー間の協働により、個人的および職業的生涯発達と関係づけてメディア情報リテラシーを促進する。
5. 学校のメディア情報リテラシー公式カリキュラム開発を支援する。
6. 異文化間・異宗教間対話、ジェンダー平等、参加的民主主義的な公共圏における平和と個人尊重の文化を強化するために、教育、文化、経済およびテクノロジー領域間のメディア情報リテラシーに関する、一般的かつ共有・協同的な政策や方略を促し、唱導する。
7. メディア、情報およひICT企業に対して、以下の観点から、メディア情報リテラシーを優先するように働きかける。すなわち企業の戦略プランや特定指標の集約等によるガバナンス、CEO報酬基準への導入、ステークホルダー(顧客、従業員、研究者,金融業界、若年層の市民および市民社会)との定期的な対話の確保、明確で透明な説明責任の枠組みの維持などである。
8. 図書館や他の文化機関が、日常的に自らのメディア情報リテラシーおよびトランス・リテラシー(訳注1)実践に取り組むための教育提供を確かなものとするとともに、図書館や文化機関の専門職員がサービス利用者のメディア情報リテラシー教育を実施するための必要な能力の開発訓練を受けることを確かなものにする。
9. 公共メディアや政府に対して、自らのメディア情報リテラシー方略に特別な努力を傾け、焦点を当てるよう要求すること。
10. 特別な援助を必要とする人や先住民その他十分な行政サービスを受けていないグループのためのメディア情報リテラシーを促進すること。
ロードマップ
以下の点を通して、メディア情報リテラシーを推進する。
・メディア情報リテラシー・グローバル・パートナーシップ同盟(GAPMIL)を強化する。
・定期的に開かれる大陸および世界的なフォーラム組織の枠を超えて、世界中に大陸および国ごとのGAPMIL支部を設置し、メディア情報テクノロジーに関わるステークホルダーの参加を確実なものにする。
・もし可能ならば、すべての大陸で研究機関の協力や連盟のためのバーチャルなグローバル・メディア情報リテラシー・ネットワークの設立を促進する。
たとえば、第一回欧州メディア情報リテラシー・フォーラム開催中にステークホルダーは議論の刺激を受けて、欧州メディア情報リテラシー観測機関を作るべきであると考えるに至っている。
・メディア情報リテラシーOER(オープン教育リソース)を促進する。
・ユネスコと国連文明の同盟によって作られたUNITWIN「メディア情報リテラシーと異文化間対話」プログラムを拡大し,大学や教育機関間の連携を進め、メディア情報リテラシーに関する研究や教職員および図書館専門職員の研修、修士博士課程プログラムを促進する。
・フォーマル、ノンフォーマル、インフォーマル教育にメディア情報リテラシーをコアコンピテンシーとして、知識の対象としての導入を促進し、教育実践を研究するために、世界中の国際機関や教育機関を集結させる。
・メディアや情報プロバイダーに対して、教育組織との協働、人権にそった倫理規範および表現と情報の自由の原理を遵守しつつ視聴者の参加の機会を作ることによって、メディア情報リテラシーの促進を図るよう、協力を求める。
結論
これらの勧告は、21世紀において、すべての市民に対するメディア情報リテラシーの包括的な付与をもたらすための広範囲な方略を示すものである。私たちは、すべてのステークホルダーに対して、このメディア情報リテラシー政策と実践に関する宣言を支持し、実現するために積極的な役割を果たすよう訴える。
訳注1 技術の壁を超えて多様なメディアを活用し、多様な他者と協働する能力