万人のための万人によるメディア情報リテラシーに関するソウル宣言
ディスインフォデミックからの防御
前文
新たな情報の潮流やデジタル技術の飛躍的発展、メディアとコミュニケーション・サービスの爆発的な成長が世界中の人々の生活を圧倒する状況と、それに伴う課題を認識する。すなわち以下の点である。
・今日の世界において、新型コロナ・パンデミックと命を危険に陥れる偽情報の洪水、いわゆる「ディスインフォデミック(偽情報大流行)」を考える。
・メディア情報リテラシー(MIL)は、ディスインフォデミックに対処するためのコア・コンピテンシーであり、MILは情報へのアクセス、表現の自由、プライバシーの保護、暴力的過激主義の防止、デジタル・セキュリティの促進、ヘイトスピーチと不平等との闘いに対しても貢献できることを強調する。
・MILは多様性を促進し、とりわけ社会的に疎外された人々が自分たちの世界観を表現するコンテンツを制作し、発信する能力に関連していることを認識する。
・17の持続可能な開発目標(SDGs)、とりわけ「平和、正義、強力な制度」に関するSDG16のターゲット10(情報へのアクセス)、「万人のための質の高い教育」に関するSDG4、「ジェンダー平等と女性と女児のエンパワーメント」に関するSDG5、「ディーセントジョブと経済成長」に関するSDG8、「持続可能な都市とコミュニティ」に関するSDG11などの達成に貢献する上でのMILの重要性を強調する。
・2020年は、2019年11月の第40回ユネスコ総会において公式にグローバル・メディア情報リテラシー・ウィークが宣言されて以来、初めての祝賀行事であることを認識し、ユネスコMILアライアンス2.0の設立を歓迎する。
・ユネスコが、都市空間におけるMILに関する創造的な学びを刺激し、MILの推進に従来関わりを持たなかった人々の関わりを促すためのグローバルMILシティの枠組みを推進していることを認識する。
・デジタル・コミュニケーション、経済・社会の発展、社会的相互作用においてますます重要な要素となってきている人工知能(AI)の倫理性についての道具を開発しようとするユネスコの作業とMILとの関連性に注目する。
・グルンバルト宣言(1982年)、情報リテラシー社会に関するプラハ宣言(2003年)、情報リテラシーと生涯学習に関するアレキサンドリア宣言(2005年)、MILに関するフェズ宣言(2011年)、MILに関するモスクワ宣言(2012年)、デジタル時代のMILに関するパリ宣言(2014年)、変化するメディアと情報の状況におけるメディア情報リテラシーに関するリガ勧告(2016年)、メディア情報リテラシーに関するユース宣言(2016年)、カンティマンシスク宣言「開かれた政府の文化を構築するためのメディア情報リテラシー」(2016年)、ユネスコの「MIL都市のためのグローバル・フレームワーク」(2018年)など、これまでの宣言に示されたMILの発展の精神を再確認する。
それゆえに、
私たちは、2020年グローバル・メディア情報リテラシー・ウィークの特設会議およびユース・アジェンダ・フォーラムの参加者として、MILへの新たな支援を宣言する。
私たちは、MILだけではパンデミックを含むすべての問題の解決法にはならないことを理解している。しかし、持続可能でインクルーシブな社会を構築するために、教育、社会、経済システム全体を通して、MILがさらに認識され、評価され、より積極的なアプローチの一環として適用されるべきだと主張する。
私たちは次のように主張する。批判的思考に取り組んでいるすべての人のためのメディア情報リテラシーを強化することが、人々がICTと関わる際の批判的思考と真偽判別力を強化する持続可能なアプローチをもたらす。とりわけ危機的な状況下でのICTとの関わり方について、人々の批判的思考と識別力を強化するのである。したがって、私たちは、デジタルでつながる時代に「万人のための万人によるメディア情報リテラシー」を促進すべきであると考える。
これに関連して、私たちは次のことを約束する。
1. 情報へのアクセスや質の高い教育など、パンデミックによって大きく拡大した格差への幅広い取り組みを通して、MILを推進し、誰一人として取り残さない。
2. インターネット通信回線業者、学識経験者、NGO、国際・地域組織、通信規制当局、メディア、市民社会、若者、コミュニティからのMILおよびMIL政策への参加を促進する。
3. ディスインフォデミック、気候変動などに取り組むためにMILの取り組みを強化することを提唱するとともに、人権であるだけではなく、偽情報の解決策の一部でもある表現の自由と情報へのアクセスの尊重を求める。
4. AIなどの技術の透明性、包括性、安全性を確保するために、機関や企業の倫理的枠組みにMILへの配慮を取り入れる。
5. 技術決定論に対処するためのMILイニシアティブを提唱する。
行動の呼びかけ
私たちは、国から都市にいたるまで、自治体や政府に対し、以下のことを求める。
1. 教育、健康、選挙、子どもの保護、気候、ジェンダー平等、およびいくつかの事例に触れるガバナンスや規制を含む、すべての関連領域を横断する政策および資源配分を通じて、「万人のための万人によるメディア情報リテラシー」の推進に関与すること。
2. MILの行動を各国のコロナ対策に統合し、将来起こりうる危機を考慮した市民の情報弱体化への抵抗力を構築するための資源を割り当てること。
3. すべての世代にデジタル時代の生涯学習を保障し、国内および国際的MIL政策、カリキュラム、プログラムの開発を支援する。
4. フォーマルな教育制度の内外を問わず、現在のMIL教育者および潜在的なMIL教育者のスキルアップと訓練を支援する。
5. 女性・女児を含む、疎外される危険にさらされているグループを優先的に位置づけてMIL政策を策定し、これらのグループがMILのエンパワーメント活動の受益者となることを保証する。
6.若者と市民社会の声が届くよう、MIL政策決定へ彼らの積極的な役割を果たすべく彼らの参加を増大させる。
7. 各省庁、有権者教育機関、市当局、教育機関、通信規制機関、メディア機関、図書館、研究機関との連携を強化し、MILの認知度向上を図る。
8. 都市をユネスコMILシティに変え、都市に住む人々をコミュニケーションと情報のコンピテンシーを有するようエンパワーメントする。
9. 科学者や学術界のネットワークと積極的に協働し、政府、国、地方レベルでのMIL活動と政策を確実なものとし、信頼性と関連性が高く、時宜にかなう情報源をMIL関連活動の実践に統合する。
10. MILへの意識化と認知度を高めるために、各省庁、有権者教育機関、市当局、教育機関、通信規制機関、メディア機関、図書館、青少年情報サービス、研究機関との協力を強化する。
11. 現代的規制、メディアとテクノロジーのガバナンス、図書館の発展、テクノロジーデザインのための重要なツールとしてMILを推進する。
私たちは市民社会、メディア、若者、学術機関、研究者に以下の活動を求める。
1. ユネスコMILアライアンス、MIL異文化対話大学ネットワーク、ユネスコチェア・UNITWINネットワークなど、MILに関連するネットワークに参加して、専門知識や見識を共有し、MILプログラムの影響を評価する。
2. 新型コロナによるディスインフォデミックへの対応と将来のディフスインフォデミックに備えるため、国、地域、世界レベルでの協働行動を計画し、実行する。
3. ユネスコの教職員用MILカリキュラムの改訂のための協議プロセスに貢献する。これには生涯学習教育者およびフォーマルな教育以外の教育者(図書館司書など)のためのシラバスを含む。
4. MILに関する国内および国際的なガバナンスと政策によりいっそう関与する。
5. 多文化・多言語コミュニケーションや言語に関する権利保護、さらに弱者や疎外された集団とのコミュニケーションの障壁の打破など、これらの問題に取り組んでいるMILの枠組みを促進する。
6. MILが感情のリテラシーやその他のコンピテンシーなど、心理的・社会的健康への貢献について、学際的な研究を促進する。
7. 伝統的メディアの視点からさまざまな分野での取り組みや成果を学ぶために、MILのネットワークや議論に参観・参加する。MIL活動は、ジャーナリズム分野の専門家と同様にメディアや情報の価値に関心を持っている。
私たちは、インターネット通信事業者を含む民間企業に以下のことを呼びかける。
1. マルチステークホルダー制度を通じて偽情報に取り組み、メディア情報リテラシーを持ったコミュニティを構築するための社会的努力の一環として、説明責任のある役割を果たす。
2. MILをユーザーサービスや標準的な業務手順に統合するための資源を割り当て、新型コロナのディスインフォデミックに対する防御としてのMILの役割を強化する。
3. MILの政策立案、制度的な能力の強化、教職員、市民社会、保健ワーカーなどの関係者への訓練に対する資源の支援を増やす。
4. 若者によるMIL普及のための取り組みなど、若者へのMILを推進する。
5. MILに関する科学的・学術的研究システムを支援するための具体的なプログラムを開発する。
6. 企業の権利尊重義務の一環としてMILを推進し、表現の自由、情報へのアクセス、プライバシーなどの人権を支援する。
7. AIやその他の新技術を活用したMILの社会イノベーションとこれらの取り組みに社会的弱者グループの参加を促進する。
我々は、ユネスコに対し、他の国連機関と協力して以下のことを要請する。
1. ユネスコは、メディア情報リテラシーの分野における主要な国際機関であり、政策に影響を与える存在としての役割を維持し、さらなる可能性を実現するために、この活動に対する十分な支援を確保すること。
2. ユネスコCOVID-19レスポンス・プログラムの他分野への導入にMILを継続的に組み込むこと。
3. 民間部門を含む多様な利害関係者を巻き込んで、偽情報への取り組みに参加させ、デジタルスキルを含むデジタル格差を解消するための取り組みにMILが含まれるようにする。
4. MILの取り組みに社会的弱者グループを含めることに焦点を当て、MILに関連したジェンダー平等の促進を継続する。
5. 国連機関内でのより積極的なMIL協力に向けた取り組みを行う。
6. 国連による「グローバル・メディア情報リテラシー・ウィーク」の公式宣言を支持する。
7. 「万人のためのMIL」を緊急優先事項として宣言するための取り組みを強化する。
原文は
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